ホーム > 活動案内・報告 > 活動報告 > トロント海外研修2016(カナダの多文化主義における歴史班からのご報告)

活動報告

トロント海外研修2016(カナダの多文化主義における歴史班からのご報告)


 4月28日から5月10日の日程でカナダ・トロント大学を拠点に3期生のフィールド研修が行われました。現地では4班に分かれて活動しましたが、Overview of History and Debates on Canadian Multiculturalism班の下朋世さん(人間科学研究科博士前期課程2年)からのご報告です。

カナダの先住民(First Nation)と日系移民の歴史を学ぶ

[写真1]フィールドトリップ、Naadmaagit Kiの様子

[写真2]日系文化会館にて 展示の説明を伺う

 今回の研修では、4月27日から5月9日までカナダのトロントを訪れました。カナダの多文化主義(Multiculturalism)を随所で感じることのできるこの町で、トロント大学での授業やフィールドトリップを通して学び、3つのグループに分かれて発表を行いました。

 私たちのグループ Cluster 1はOverview of History and Debates on Canadian Multiculturalismをテーマとしました。

 4月29日のフィールドトリップはNaadmaagit Ki Group Tourというものでした。カナダの先住民(First Nation)にルーツを持つAlan氏をガイドに、川岸の先住民たちが暮らし守ってきたというHumber River沿いの地域を訪れました。焚火を囲み、彼らの薬としての煙の使い方を体験し、鹿肉や鮭を炙って食べながら、人と自然の関係についてお話を伺いました。その後、川で釣りをしたり、鹿を探して歩いたり、ベリーやメイプルなどの植物について学んだりしました。

 4月30日はJapanese Canadian Cultural Centre(日系文化会館)を訪れました。日系移民の歴史についての会館の展示を見学した後、日系カナダ人のボランティアの方々からお話を伺いました。戦時中の強制収容について語ってくださった2世の方、戦後渡航された新1世の方、若い世代の方、さまざまなバックグラウンドを持つ方々から体験としての日系移民史を伺うことのできた貴重な機会でした。

 戦時中の強制収容・財産接収といった政策が、個々人の人生のみならず、日系社会そのものに与えた大きな打撃、文化や言語の継承に与えた影響などを考える時、政府による公式の謝罪と補償はMulticulturalismの歩みを考える上で、また国内外に限らず、コンフリクトの歴史を正視した「共生」の構築を考える上で、考えさせられるところが多くありました。

 最終日の発表に向けて、私たちのグループでは日本の共生とカナダのMulticulturalismに関して、差別的な歴史を乗り越え、前に進むための方法としての“謝罪”と“Heal”という概念をキーポイントとして考察し、東北研修での南三陸の事例や哲学の授業やハワイ研修でのP4Cの例なども引用しながら、発表を行いました。

 カナダのMulticulturalismをとりまく歴史の中で行われてきた謝罪、また日本での事例、こうした中から謝罪の様々な側面が考えられます。コンフリクトの歴史の後の謝罪というのは、その歴史を正視し、場合によっては補償を行うというものですが、ここで重要なことは、謝罪というのは、される側だけではなく、する側される側双方にとって、前を向き、先へ進むために必要なことだということでしょう。

 29日のフィールドトリップで、先住民の歴史や政治的社会的主張を直接的に語るのではなく、エコレンジャーのように、自然を保護し伝えていく大切さを繰り返すAlan氏のガイドに、当初私たちは困惑を覚えました。

 そんな私たちにProf. McElhinnyは、植民地化からの回復としての“Heal”(癒し)という概念を提示されました。Healというのは、単に植民地化以前の状態に回帰することを目指すとか、失われたものを取り戻すということではありません。現実には、植民地化や続く抑圧の歴史はなかったことにはできません。しかしながら、そうした不公正な歴史の流れを断ち、よりよい第3の道を模索すること。そのプロセスがHealなのでしょう。

 これをもとにして、Healとその実践という側面から共生を考える時、Humber Riverでの活動は、人と自然との共生を考える契機であるだけでなく、先住民当事者だけではなく、非当事者、あるいは訪問者という立場である私たち自身をも癒しのプロセスに参加させるものであり、表面的、あるいは一方向的なSympathy(同情)ではなく、相手を理解し、尊重するEmpathy(共感)をもたらす一つの大きなあり方だと考えられました。

 先へ進むための謝罪、さらに、Healとその実践という概念から共生をとらえなおすことは、新しい発見を提供してくれるのではないでしょうか。

 

(2016年6月13日, 下)

« 活動報告 一覧へ戻る