ホーム > 活動案内・報告 > 活動報告 > 未来共生セミナー「世界の今と未来を考えよう」のご報告

活動報告

未来共生セミナー「世界の今と未来を考えよう」のご報告

[写真1]セミナー当日のプログラム(PDFファイル

 キャンパスが新年度の賑わいを見せるなか、2014年4月12日(土)未来共生セミナー「世界の今と未来を考えよう」が開催されました。場所は旧制浪速高等学校の校舎として立てられ、大阪における学術の伝統を受け継ぐシンボルとも言われる大阪大学会館です。セミナーでは特に開発途上国の現状と日本の国際協力のあり方について議論を深めました。会場に300名近い参加者がお越しくださり、これまでの未来共生セミナーでは最大規模のものとなりました。当日の様子をご報告いたします。

基調講演「21世紀の世界と日本の国際協力」

 まず、基調講演として、国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長が「21世紀の世界と日本の国際協力」と題した講演をされました。

 田中さんは日本の国際協力の歴史から説明されました。日本政府の途上国援助(ODA)は今から60年前。アジア諸国を対象に1954年に始まりました。軍国主義であった日本が第二次世界大戦中に与えた被害に対する償いという一面もあったそうです。それでは、どのような実例があるのでしょうか。たとえば、インドネシアにおける治水事業。1960年代後半から始まって1980年代まで続いたプロジェクトです。日本はインドネシア政府とともに現地でダムを造ったり、トンネルを掘って水を流したりすることで、大阪市よりも広い面積を湿原地帯から穀倉地帯に変えました。その結果、マラリアなどの病気も減少し、現地での人材育成にも貢献できました。その他にもブラジル、タイ、トルコなどの国々でも日本は国際協力をしてきたそうです。

 日本の国際協力の特徴として田中さんは「(現地の社会から)求められたことをするにしても、人的交流を重視する」ことを強調します。つまり、ものを作ることも大切ではあるが、それだけでは後は続かない。人的交流を深めて相互の国の信頼関係を作り、人材育成をしようとの考え方です。

[写真2]満員の会場

[写真3]基調講演をされるJICAの田中明彦理事長

 それでは、田中さんは21世紀の世界について、どのようにお考えなのでしょうか。田中さんは統計データを交えて話されました。21世紀の世界を考えた場合、経済成長、パワー・トランジッション、パワーの性質の変化、脆弱性という4つの特徴を指摘されます。

 第1の特徴は経済成長です。日本にいればなかなか実感しにくいのですが、この20年間で世界は著しい経済成長を経験しました。GNI(国民総所得)を見れば、東アジア、南アジアの経済成長が著しい。そして、貧困人口(1日あたり1.25ドルで生活する人の人口)の絶対数が減ってきている。このようなことは、20世紀の世界では考えられなかったので、その点で好ましい傾向が生じている、とされます。

 第2の特徴はパワー・トランジッションです。世界の18世紀から21世紀までのGDP(国内総生産)の変化を示されました。18世紀の世界では世界全体のGDPは中国やインドが大きな割合を占めており、ヨーロッパは2割程度に過ぎない。それが、19世紀後半から20世紀にかけて変化し、中国やインドの比率がどんどん小さくなり、ヨーロッパやアメリカの比率が7割を占めるまでに大きくなった。それでは、未来はどうなるのでしょうか。田中さんは2030年代を予測したデータを示します。中国、インド、その他のアジアの国々が世界の半分ほどのGDPを占めるようになっているだろう。それゆえ、国際的な取り決めでもこれまでとは違った課題に直面することがあるかもしれない。

 第3の特徴はパワーの性質の変化です。パワー・トランジッションのようなパワーの規模の変化だけでなく、パワーの性質が変化してきている、ということです。企業には国と同じ程度の経済規模を持つ組織があります。たとえば、ウォールマートはノルウェーと同程度の経済規模を持ちます。また、米国のNGOではビル&メリンダ・ゲイツ財団の資金協力規模は日本のそれよりも大きい。かつては国がパワーの中心であったが、国とは異なる組織が国と同等かそれ以上のパワーを持つことにより、これまでの国家同士の調整方法が異なった形になるだろう。

 第4の特徴は脆弱性です。大局的に見れば世界経済は成長しているものの、その中で経済格差の広がりが見られ、その点に懸念を示されていました。戦争でインフラが破壊され、政府が機能しておらず、人材が不足している国に無償の資金協力をしたところで、一部の人たちが資金を得るだけで、経済格差をさらに強める結果になりかねない。したがって、脆弱性を考慮に入れた上での国際協力をどのようにしてくかが今後の課題となるだろう、とおっしゃっていました。

 以上のように、日本の国際協力はうまくいった前例も多くあるため、そこから学ぶこともできる。しかしながら、脆弱性を持つ地域への支援のように今後の課題もあるだろう、として基調講演を締めくくられました。

国連WFP日本大使・知花くららさんと学生との対話

 第2部は国連WFP日本大使の知花くららさんが「今ここから未来への種蒔きー食糧支援の現場を訪ねて」と題して、本プログラム担当教員の澤村信英先生(人間科学研究科 教授)や学生と対話されました。国連WFPは飢餓のない世界をめざして活動する国連の食糧支援機関です。知花さんは2007年から国連WFPの活動にかかわり始め、2013年に国連WFPの大使に就任されました。当初、国連WFPの活動はほとんど知らなかったそうです。ただ、「学校給食プログラムに一目惚れ」したことが活動により深くかかわる大きな動機になったそうです。

 国連WFPの活動では、ザンビア、スリランカ、エチオピアなどを訪問して、実際に食糧支援の現場に行かれました。知花さんは2008年にザンビアの食糧支援の現場を訪問したときのお話をされます。そのとき、ザンビアは洪水や干ばつといった自然災害で慢性的に食糧不足の状態でした。そのため、脱水症状で命を落とすような子どももおり、現場を見た知花さんは強く衝撃を受け、無力感を感じられたそうです。「学生時代は本を読むことで勉強していたが、それだけではわからないことがあった。実際に現地に行ってそのことに気づいた。現地のリアリティを見ることは非常に大切だと思います。現地に行くことで、問題の切実さを感じました」。

 そのような話を聞けば、食糧支援の現場は非常に重い雰囲気のあるようなところのように思われますが、現地の人たちがダンスで迎えてくれるようなこともあり、訪問先の文化の素晴らしさに触れるときが非常に嬉しい瞬間です、とおっしゃっていました。

[写真4]お話をされる知花くららさん

[写真5]知花さんと学生の対話の様子

 学生は、山本香さん(人間科学研究科 博士課程後期1年)、小林碧さん(人間科学研究科 博士課程前期2年、本プログラム履修生)、大瀧千輝さん(言語文化研究科 博士課程前期2年、本プログラム履修生)、大野真梨奈さん(外国語学部3年)が参加しました。学生も東北の被災地や途上国の現場で厳しい現実を目の当たりにし、無力感を感じた経験があるそうです。大瀧さんは本プログラムで訪れた東日本大震災の被災地で自身の無力感を感じました。それを踏まえた上で、命の根幹に関わる食べることを知花さんはどのように考えているのか尋ねました。

 知花さんによると、国連WFPは、食糧支援が活動の中心ですが、とくに学校給食プログラムに力を入れている、とのことです。なぜ、学校給食なのでしょうか。国連WFPの活動では食糧が足りていない地域で学校給食を配給するのですが、そのような地域では親が子どもを働き手と考えて、子どもを学校に行かせたがらないそうです。ところが、学校給食があれば状況が変わります。親は子どもが学校でご飯が食べられる、と考えて、子どもを学校に送り出してくれるのです。そのようにすることで、国連WFPは学校給食のシステムを整えるとともに、子どもの就学率の向上に力を入れているとのことです。

 大野さんは「世界から飢餓をなくすために学生としてできることはありますか?」と質問しました。知花さんは「まず、知ることがすごく大切だと思います」とおっしゃり、知ることで自分の関心や問題意識をはっきりさせ、そのあとに行動すれば良いと思います、とおっしゃっていました。

パネル討論「世界は変わる 世界を変える」

 第3部はパネル討論です。地元、大阪の中小企業、日本ポリグル社会長の小田兼利さんと京都のNGO、日本国際民間協力会(NICCO)ヨルダン事務所代表の工位夏子さんが本プログラム特任教員の脇阪紀行先生(本プログラム 特任教授)の進行のもとパネル討論をされました。

[写真6]水の浄化実験をする日本ポリグル社の小田兼利さん

[写真7]ヨルダンでの活動についてお話をされるNICCOの工位夏子さん

 小田さんはパネル討論の前に、泥の混じった水から簡単にきれいな水を作る技術を実演して下さいました。この技術は大阪大学の工学部の先生と一緒に開発されたそうです。技術開発の上で、とくに小田さんが注意を払ったのは、発展途上国で文字が読めない人がいたとしても、簡単に安価で水を浄化できるようにする、ということです。

 実演では、独自開発した水質浄化剤を泥水に入れた後、棒でかき混ぜて、泥が塊になって水槽の下に沈んでいくことを会場のみなさんといっしょに観察しました。そのあと、その水を濾過すると、大変きれいな水ができあがりました。そして、驚くべきことに、小田さんはその水を実際に飲んでしまわれました。泥水だった水が、飲めるまでにきれいな水になったのです。セミナーの会場も大きな拍手に包まれました。小田さんは、現在、実際にタンザニアでこの技術を用いての実験に着手されているそうです。「1トンほどのタンクの水でも30分もあればきれな水ができます」とおっしゃっていました。

 これほどの技術ならば、引く手あまたのようにも感じますが、実は発展途上国の人々にこの技術で出来上がった水を売り込むことは至難の業だったそうです。なぜならば、水を買うという習慣がない社会も多く、泥水を飲んでも平気であると考える人たちが多かったためです。「日本の常識は本当に通用しない」。そのため、小田さんは学校でセミナーを開いて水をきれいにする実験を実際に見てもらい、子どもたちに「これまでこんなに泥が沈む水を飲んでいたのか」と感じてもらうところから根気よく活動されました。

 つぎに、工位さんがお話をされました。現在、工位さんはヨルダンでシリア難民の支援をしています。ヨルダンにはシリア内戦の影響で、多くのシリア難民が流入しています。彼らの多くがこれまでの職業や家を失ったり、また、家族を失ったりして、大きな心の傷を抱えていることが多いそうです。そのため、NICCOでは心理社会的ケアとして女性や子ども向けにワークショップを開き、そのような傷を和らいでもらうような活動をされているそうです。たとえば、絵を描いたり、歌を歌ったり、粘土を作ったり、自分たちで演劇を上演する。そのような活動の中で、同じ境遇にある人たちと自分たちのつらい経験を分かち合うことで心の傷は少なからず癒やされるそうです。実際に工位さんが見た光景では、ほとんど話さなくなっていた子供がワークショップを通じて演劇をするとき、その子どもの親が驚くほどに生き生きと演じたそうです。

 工位さんは以前、東日本大震災の被害を受けた宮城県気仙沼市でも活動されていました。ヨルダンのシリア難民の人たちが抱えている問題と、気仙沼で被災者の人たちが抱えていた問題は非常に似ているそうです。被災地でも集会場で編み物などの作業をしながら、気軽にお茶を飲んで、自らのつらい体験を同じような境遇にいる人たちと分かちあえば、その人たちの心の傷が緩和されていくことがあったそうです。

 以上のように未来共生セミナー「世界の今と未来を考えよう」では、日本の国際協力の過去と将来、食糧支援の実際、発展途上国での浄水技術の普及の仕方、そして、難民の心理社会的ケアについて実際に活動をされている方々からお話を伺いました。未来共生セミナーは大変な盛況の中で終わりました。ご来場くださった皆さま、お話くださった皆さま、ありがとうございました。

 

 

(2014年5月15日, 平尾)

« 活動報告 一覧へ戻る