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活動報告

ハワイ研修(2014年度)のご報告

[写真1]ハワイの夕日の写真!「Sunset in Hawaii」

[写真2]ドクターJと一緒に振り返り

 「未来共生の哲学と諸課題」(本間直樹准教授[コミュニケーションデザイン・センター]、高橋綾非常勤講師[コミュニケーションデザイン・センター]、平沢安政教授[人間科学研究科])の授業では、多様な人びととの「共生」にとりくむために大切な対話やセーフティについて学んでいます。毛糸のボール(コミュニティボール)が飛び交う対話のスタイル(p4c; philosophy for children; 「子どもの哲学」*)にもずいぶん履修生たちは慣れてきました。p4cはひとつの教育方法であり教育哲学であり、実践そのものを意味します。ハワイ研修の醍醐味は、日本の授業で経験したことがp4c Hawaiiの本場でどのようにとりくまれているかを、その背景や風土も体感しながら学べることです。昨年度ハワイ研修を経験した履修生は、その後プロジェクト・ラーニングの一環としてp4cにとりくみました。コリア国際学園でエスニック・スタディーズの授業をおこなった「のいる(not in a rush)プロジェクト」、大阪市港区役所と一緒に子どもの居場所について考えるボランティア養成講座を開催した「37プロジェクト」などのp4cプロジェクトが、履修生企画で実施されました。

 昨年度につづき二回目となる今回のハワイ研修でも、p4cを全校あげてとりくんでいる幼稚園・小中高校に授業見学に行くつもりでしたが、日程が合わず行けなくなりました。しかし、ハワイ大学に留学経験をもつ原めぐみさん(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程)にコーディネートしていただき、ハワイの移民の歴史について学び、とくに日系や沖縄などのエスニックコミュニティを訪問する機会を得ました。そしてなんと!ハワイ滞在中にワイキキ幼稚園とワイキキ小学校でp4cの授業見学をする幸運にも恵まれました。履修生たちは、子どもたちの主体性や想像力、探究心を尊重するp4cのやり方の実践に触れ、子どもたちのいきいきとした授業への参加に感銘を受けました。ハワイでp4cにとりくむ第一人者ドクターJ(ハワイ大学ウエヒロアカデミー)にも会うことができ、わたしたちの研修の振り返りの輪にも入ってくださいました。 
 本報告では、2015年2月18日から3月1日までのハワイ研修で、履修生が学んだことや気づいたことをいくつか報告します。

* ハワイ大学ウエヒロアカデミー哲学倫理教育ホームページを参照。

ルーツや「共生」について考える

 ハワイは、移民の多い多文化な社会です。アジア系は40%に近いマジョリティで、「混血」の比率も高く、白人が少ないことが特徴です。今回の目的のひとつは、ハワイの多文化社会のエスニックコミュニティ、とくに日系、沖縄系住民の歴史や文化について学ぶことでした。わたしたちがお世話になったハワイ大学エスニック・スタディーズ講座オカムラ教授は、文化人類学を専門としハワイのフィリピン系移民の研究に従事されています。『Japanese in Hawai’i』『Race and Ethnicity in Hawai’i』などの著作があり、自身日系4世です。オカムラ教授や原さんのコーディネートのもと、チャイナタウン、プランテーションヴィレッジ、ハワイ沖縄(ウチナンチュ)センター、日本文化センターなどを訪問しました。1885年に官約移民が本格化し、日本本土からハワイへの移住が開始。その後10年ほどたって沖縄移民がハワイに到着するなど、ハワイには多くの日系、沖縄系住民がいまでは4世、5世までいます。ハワイ沖縄センターのスタッフの方は、履修生の出身やルーツをたずね、「あなたのルーツを大事にしてください。先祖のことや自分の生まれた地域などを調べてみてください」と話されました。ハワイと日本(また中国や韓国などハワイの移民ルーツ国)の結びつきの強さを知り、ルーツやコミュニティについて各々想いをめぐらせました。

 プランテーションヴィレッジに同行してくださったドミンゴさんというフィリピン系2世の「おじいちゃん」のお話も印象的でした。カウアイ島のプランテーションに育ち、第二次世界大戦時には志願兵としてアメリカ軍隊に入隊し、フィリピンに派遣されました。日本軍とは敵対関係でした。90歳のドミンゴさんのお話の数々は、ユーモアで機智にとみ、移民政策や戦争といった国や時代に翻弄されつつもサバイヴされた生き証人としての言葉の重みが感じられました。また、ドミンゴさんがお知り合いの沖縄系の方の肩を組み、「この人とは小さな頃から一緒で、仲間です」と笑顔で話されたのも印象的です。フィリピン系移民、沖縄系移民の交流を目にして、エスニシティを超えたつながりやともに生きる(「共生」)ということがどういうことかを考える機会となりました。

[写真3]ハワイ沖縄センターのIssei Garden

[写真4]ドミンゴさんとプランテーションビレッジにて

ハワイ大学の学生とp4cワークショップ

[写真5]EWCでのp4cワークショップ

 今回の研修には文学研究科臨床哲学の大学院生も参加し、一緒にp4cのワークショップを実施しました。ハワイ大学の敷地内にあるイースト・ウエスト・センターの協力のもと、ワークショップにハワイ大学の学生が参加してくださいました。

 イースト・ウエスト・センター(EWC)は、アメリカ合衆国・アジア・太平洋地域の人びとと諸国の間に、よりよい関係や理解が生まれるよう協同研究、調査、対話を進めていくための機関として1960年に設立されたものです。州立ではなくアメリカ政府の出資と民間からの助成金、寄付などで運営されているため、ハワイ大学とは独立した非営利の公的機関であることが特徴です。わたしたちはEWCの教育プログラム長と挨拶をし、センターの説明をうかがいました。また、毎週水曜日にEWCの学生主催で開かれるウェンズデー・セミナーにも参加しました。わたしたちが参加した日はインドネシアのジョグジャカルタのバスカー(バスの中で歌や演奏をして生計を立てている人たち)を追ったドキュメンタリー映画が上映され、インドネシア在住の監督とSkype中継がされました。

 p4cワークショップは、今回の研修の終盤におこないました。臨床哲学大学院生の進行で、参加者は椅子を円に並べて座り、コミュニティボールをもって自己紹介を始めました。その後、「あなたがハワイでイメージする好きな色は?」という進行役の問いかけに対して、それぞれ「海の色、ブルー」「木や山々の色、グリーン」「プランテーションヴィレッジからの帰り道に車の中で見た虹、レインボウ」などさまざまな色が出てきました。虹について話が焦点化していくと、「虹を見て『ラッキー』『幸せ』と思うのはなぜか」をめぐってそれぞれ考えや経験を話し合い、探究が始まりました。ハワイ大学の学生との対話は、それぞれのハワイでの経験を参加者の背景を大事にしながら共有した貴重な時間となりました。

チューイングガムのように噛みしめていたい問い

[写真6]ドクターJと一緒に

 ハワイ研修中に何度かメンバーで振り返りをおこないました。太平洋につづくきれいな海辺のビーチやカフェもあれば、ホテルのロビーがもっとも多く、ドクターJと一緒に公園で振り返りをした日もありました。研修最終日にみんなで振り返ったのは、「ハワイでもっとも印象に残ったこと、そのシーン」と「ハワイでの経験があなたの人生において与えたインパクト」でした。ハワイの多文化社会に魅了されたという感想や、ハワイのエスニックコミュニティへの訪問を通して自分のルーツについて考えるようになったという感想などが出ました。ルーツをめぐって自分の中で「葛藤」が起きたエピソードを話す人もいれば、そのエピソードに対して「葛藤は悪いことではないのでは?」という意見や「自分にはそういう意味での葛藤はなかった。人間の複雑さを感じた」という感想が述べられるなどしました。最後に、ハワイでの経験を通じて「チューインガムのように噛みしめていたい問い」をみんなで考えてみました。「ハワイは本当に『共生』しているのか」「(自分が関心をもつ)ハワイとフィリピンと沖縄をつなぐものは?」「(ルーツや文化などを)『受け継ぐ』とは?」「(移民が闘いの歴史の中で自助組織をつくってきた)『つくる』って何だろう」などが、噛みしめていたい問いとして挙げられました。

 ハワイ研修では、エスニックコミュニティへの訪問を通してそれぞれが自分のルーツやコミュニティ、居場所について振り返ると同時に、「共生」とはどういうことなのかを各々考える機会となりました。背景の異なるメンバーでのp4cの振り返りも、研修での気づきや経験をみんなで共有し、掘り下げる貴重な体験となりました。これらの経験が、それぞれの研究や活動、プロジェクトのなかで活かされることを願っています。

 

(2015年3月30日, 今井)

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