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活動報告

Field Reports of Toronto 2015: Native Canadians Research Group

[写真1]ネイティブ・カナディアン・センター

 私たちが今回の研修で訪れたトロントには、カナダにおける移民人口の約半数が居住している。トロント大学での2週間のプログラムを通して、私たちはカナダの多文化主義を肌で感じ、日本の「共生」についての理解を深めた。 

 我々のグループは特にトロント研修の前半、CLUSTERⅠ(overview of History and Debates on Canadian Multiculturalism)についてまとめた。このCLUSTERでは、トロント大学でのBoinnie McElhnny教授のカナダにおける多文化主義について講義やディベート、フィールドワークとしてレジェント・パークのツアーと原住民(native Canadians)に関するバスツアーを行った。

 講義では最初にカナダの移民の歴史的背景から、いかにして政策としての多文化主義が確立されてきたかを学んだ。多文化主義については様々な批評が展開され、その多くはカナダ社会における白人至上主義を指摘するものであった。多様な民族・文化集団がそれぞれのアイデンティティを維持しようと奮闘する一方で、カナダ社会全体としては「白人であること」という規範が依然として支配的であることがわかった。最後には事例検討を通して、カナダ社会のより公平・公正な将来を実現するにはどのようにすべきかについて議論した。

[写真2]ネイティブ・カナディアンのTrail Marker Tree

 バスツアーでは、昔の居住地とされている川など、カナダ先住民に関連のある場所を訪れた。ツアーの最後に訪れたThe Native Canadian Centre of Torontoは、先住民に関する資料館である。ガイドの青年によれば、移民や白人のみならず、先住民でもその歴史や文化を知らない人が多いため、先住民の歴史や文化を人々の記憶から風化させないためにも、このセンターは重要な役割を果たしているという。私たちは、同センターで働く先住民当事者にインタビューを実施した。ここから、あまり報道はされない当事者の想いを知ることができた。たとえば、今もなお残る先住民に対する偏見や差別、先住民だけでなく移民や白人の文化についても知りたいと思っているが、情報を入手することが困難といった現状である。

 私たちは以上のことから、カナダの多文化主義が実際に機能しているのかという疑問を抱いた。というのも、カナダの多文化主義政策では、白人とのコントラストによって「目に見える」(visible)ようになった移民に焦点が置かれがちであるが、「見える移民」と「見えない白人」の二項対立的な認識枠組みの中で、移民とは歴史的背景を異にする先住民の相対的な位置づけが曖昧にされているように思えたからである。このように、マイノリティが不可視化される事例は、日本でも起きている。大阪市の南小学校では、不可視化されがちなマイノリティ児童への支援が行われている。同小学校に在籍するマイノリティ児童の多くは「目に見える」ニューカマー(新来外国人)系である。彼らは日本語の指導を必要とすることもあるが、そのような児童を受け入れた経験の少ない学校では、学級内で「自然に」日本語を習得することが期待されることが多い。そのため、日本語指導や母語の維持といった彼ら・彼女らに特有のニーズが見逃され「不可視化」されることがある。南小学校ではこのような問題に対処するため、学習言語としての日本語の習得を目的とした日本語授業が正規のカリキュラム内に組み込まれている。「日本人」児童への指導の基準を単純に適用するのではなく、真のニーズを見極めることによって、同小学校ではマイノリティ児童の「不可視性」に対応していると言える。 

[写真3]ネイティブ・カナディアンのLoon Call(鳥の笛)

 カナダにおいても、The Native Canadian Centre in Toronto のように、先住民の歴史や文化に関する知識を社会に発信することで、先住民の「不可視性」の問題に対応がなされていることも事実である。しかし、社会全体としては先住民に対する関心は高いとは言えない。ただし、「不可視性」の問題は単に当事者に対する無関心にその原因を帰すことができないように思われる。問題の本質は、当事者が自己を表現したり他者に受容されたりする機会が不足していることにあるのではないか。この観点は、日本における様々な文化的・民族的背景をもつ人々の「共生」を考えるうえでも重要である。The Native Canadian Centre in Toronto が先住民に関する情報の発信によって、自己表現の機会を創出しているのと同様に、南小学校の日本語指導もまた、児童に自己表現を通じて自らを「可視化」させる取り組みと言えよう。

 
 
 
 
 
 

(2015年7月7日, 崔鍾煥、崔美善、波田野、田中)

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